はじめに
首都のバンコクは外国人も大変多く、非常に栄えている街です。大きなショッピングモールはいくつもあり、日本企業も多く進出しており、バンコク中心部には日本人街もあります。東南アジア地域の中でも、日本食レストランが数多く営業しており、バンコクで生活していても、日本と同じ食を味わうことができるほど、お店もお店の種類も充実しています。
タイは上位中所得国というレベルの国に該当しており、日本やアメリカが分類されている高所得国に近い国です。2038年には先進国入りを掲げています。
この国家戦略(2018~2037年)は、分野横断的な政策文書です。(中略)この戦略は「自給自足経済の理念に基づき、安全、繁栄、持続可能性を備えた先進国」となるという国のビジョンの実現を確実にするために推進されます。
Law and Environment Assistance Platform「国家戦略(2018年~2037年)」
国家戦略の国家開発の主要目標は、「安全な国家、満足した国民、持続的な経済成長、平等な社会、持続可能な天然資源」です。国家戦略の6つの主要指標は、1. タイ国民と社会の幸福、2. 国家競争力、経済成長、所得分配、3. 人材育成、4. 社会的平等と公平、5. 国の生物多様性、環境の質、天然資源の持続可能性、6. 政府の効率性と公共サービスへのアクセス向上です。
また、OECDの報告書でも、タイの20年国家戦略の目的は
「2037年までに先進国(developed country)になること」
Governing Cross‑cutting Challenges from the Centre in Thailand
であると説明されています。
さらに経済面では、
「2037年までに高所得国(High-Income Country)になる」
OECD Investment Policy Reviews: Thailand
ことが明確な目標として示されています。
ただし、近年は「先進国入り」という表現よりも、
- 高所得国化
- イノベーション主導型経済への転換(Thailand 4.0)
- OECD加盟
- 生産性向上
- 高付加価値産業への移行
といった具体的な政策目標の方が強調される傾向があります。(OECD)
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これは別問題です。
タイは現在も世界銀行の分類では上位中所得国です。OECDは2025年の報告で、
- 生産性の伸び悩み
- 高齢化
- 人材育成
- 競争力強化
などが課題であり、2037年の高所得国入りには大きな改革が必要だと指摘しています。
「2038年までに先進国になる」という表現は現在でも国家ビジョンとして残っていますが、近年は「高所得国(High-Income Country)」や「中所得国の罠からの脱却」という表現の方が政策文書では多く使われています。
2025年にはタイ国家経済社会開発委員会(NESDC)が、
2027年目標の達成が危ぶまれており、タイは依然として中所得国の罠から脱却できていない
タイの発展は3兆3700億バーツの支出にもかかわらず「停滞」しているとNESDCが警告
と警告しています。
同報告書では以下のようにも述べています
- タイの国家開発は、過去3年間で第13次国家開発計画に3兆3700億バーツ以上が費やされたにもかかわらず、停滞している。
- NESDCは、この失敗の原因は支出の不均衡にあるとし、予算の50%以上が、積極的で長期的な投資ではなく、社会福祉や日常的な費用に充てられていると指摘している。
- その結果、一人当たりGDP、人間開発、格差縮小、排出量に関する2027年の主要国家目標が達成されない深刻なリスクに直面している。
- 同評議会は、停滞している進歩を国家競争力の低下と関連付け、中所得国の罠から脱却するために、法律、規制、公共部門の管理における大規模な構造改革を求めている。
NESDCの年次総会で、ダヌチャ・ピチャヤナン事務総長は、投資してきた金額の割に、効果が出ていないと公式に述べています。
第13次計画の下で実施された9,132件のプロジェクトに対する総支出額は、年間平均1兆バーツを超えています。
さらに18%は道路などの標準的なインフラ維持管理に割り当てられ、重要な農業部門にはわずか約10%(年間数千億バーツ)しか割り当てられていない。
事務総長は、今回の予算配分は供給側の活動(浚渫や種子の配布など)に重点が置かれており、長期的な成長に必要な積極的な投資が著しく不足していることを反映していると述べ、特に農業生産性の向上、高付加価値製品のための技術導入、医療などの優先産業への支援の必要性を挙げた。
タイの発展は3兆3700億バーツの支出にもかかわらず「停滞」しているとNESDCが警告
大量の投資を実施したものの、目標に掲げていた通りの結果が得られず、特に公共部門の効率性、規制負担、基幹インフラにおける、あらゆる分野における競争力の低下が見込まれています。
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「日系企業による情報通信技術(ICT)人材への需要が高まっている。特に、プログラミング、データベース管理ができる人材は、質と量ともに供給が足りていない。根本的には小学校等基礎教育の強化が鍵となる」と指摘する。
福利厚生や安定性、日本企業の魅力でタイ人材確保を
タイの首都バンコクには富裕層が多く、子供の教育にも投資をする家庭が多いとされています。そのため、バンコクにいる子供は学力が一定程度あるが、地方との格差は非常に大きいです。
国全体の学力で見ると、タイはOECD諸国の平均を大きく下回っており、将来、産業を支え、技術革新を起こしていくための学力が懸念されています。
以下はユニセフの記事です。
手遅れになる前にタイの教育制度を改革せよ
手遅れになる前にタイの教育制度を改革せよ
タイの子どもたちは学力面で遅れを取り、格差は拡大し、教育制度は将来に必要なスキルを子どもたちに提供できていない。タイの次世代のためには、教育改革が喫緊の課題である。
タイの学力が低いと言われる理由がいくつかあります。ただし、「タイ人は頭が悪い」という話ではなく、教育制度や社会構造の問題が大きいと考えられています。
1. PISA(国際学力調査)の成績が低い
OECDのPISA 2022では、タイの数学・読解力・科学の平均点はOECD平均を大きく下回っています。また、数学や読解力では約3分の2の生徒が基礎レベル未満という驚くべき結果でした。さらに、成績は2012年頃から低下傾向にあります。(OECD)
2. 地域格差が大きい
バンコクや都市部の学校と、地方の学校では教育環境に大きな差があります。
- 都市部:設備や教師が比較的充実
- 地方:教師不足や教材不足が発生
同じタイ国内でも学力差がかなり大きいことが指摘されています。
タイの教育は昔から「暗記型」が強いと言われています。
- 正解を覚える
- 試験の点数を取る
ことが重視され、
- 論理的思考
- 批判的思考(Critical Thinking)
- 問題解決能力
を育てる教育が十分ではないという指摘があります。OECDもカリキュラム改革の必要性を述べています。(OECD)
4. 教師の質のばらつき
- 教員不足
- 教員研修の不足
- 教育資源の非効率な配分
が課題として挙げられます。特に地方では優秀な教師が不足しやすい状況があります。
タイには日本のような全国規模の定期的な教員転勤制度は基本的にありません。
日本では公立学校教員は都道府県や政令指定都市の教育委員会に所属しており、数年ごとに異なる学校へ異動するのが一般的です。しかしタイでは、教員は基本的に特定の学校に採用され、その学校に長く勤務するケースが多いです。
原因はもちろんそれだけではなく、地域間格差や家庭間格差が非常に大きいです。
5. 教育予算の使い方の問題
タイは教育予算そのものが極端に少ないわけではありません。
しかしOECDは、
学習成果が投資額に見合っていない
OECD Economic Surveys: Thailand 2025
と指摘しています。つまり、
- 学校の配置
- 人員配置
- 教材配分
などに非効率な部分があると考えられています。
一方で誤解もある
タイには優秀な学生も多く、
- Thailandのトップ大学
- 国際校
- 医学部や工学部
のレベルは決して低くありません。
問題は「上位層」ではなく、「全国平均の底上げ」が十分できていないことです。実際、バンコクの有名校の生徒は日本の高校生と同等か、それ以上の学力を持つ場合もあります。
要するに、タイの学力問題の本質は
「国全体の教育の質のばらつきと、暗記型教育から脱却できていないこと」
にあると考えられています。
おわりに
筆者はタイに住んでおり、現地の若いタイ人と話す機会も多くありますが、一緒に仕事をしている周囲のタイ人は非常に優秀です。仕事をする上で、日本人と一緒に働いている場合と大きな違いを感じることはありません。筆者だけでなく、共に働いている日本人も周囲のタイ人に助けられる場面が多くあります。そのため、バンコクで生活している限り、タイの学力問題を実感する機会は少ないように感じます。
一方で、私はバンコクと経済格差の大きい地方のタイ人と接する機会はほとんどありません。しかし、何度か地方を訪れた経験から、バンコクとの発展の差は非常に大きいと感じています。タイ第2の都市であるチェンマイであっても、中心部を離れると、地域の人々がローカルな飲食店で魚を焼いていたり、自然の中でのびのびと生活していたりする様子を見ることができます。
日本にも都市部と地方の差は存在しますが、学力面では東京と地方との間に極端な格差は見られません。
日本国内におけるパフォーマンス格差
OECD, PISA 2022 Results (Volume I and II) ‑ Country Notes: Japan
社会経済格差
日本のPISA 2022における数学の成績のばらつきのうち、社会経済的地位が占める割合は12%であった(OECD諸国平均では15%)。
日本の恵まれない境遇にある生徒のうち、約12%が数学の成績で上位25%に入ることができた。これらの生徒は、社会経済的に不利な状況にあるにもかかわらず、自国の生徒と比較して優れた学業成績を収めていることから、学業面で強い回復力を持っていると言える。OECD諸国全体では、恵まれない境遇にある生徒の10%が自国の数学の成績で上位25%に入った。
日本では、都市部と地方の間で学力差は存在するものの、他国と比較するとその差は比較的小さい。OECDのPISA 2022では、社会経済的背景が学力に与える影響がOECD平均を下回っており、日本の教育は地域や家庭環境による格差が比較的小さいことが示されています。「東京と地方で学力差がない」というデータではなく、「差はあるが、国際的に見ると比較的小さい」といえます。
全国的に一定水準の教育が提供されており、日本の教育制度は地域による教育格差を抑える仕組みとして機能していると考えられます。その背景には、これまで教育政策を整備してきた先人たちの努力があったことがうかがえ、感慨深く感じます。
タイにおける教育格差は、個人の能力の問題ではなく、教育機会や制度の問題による部分が大きいと考えられます。今後、教育制度や支援体制が改善され、地域や家庭環境に左右されることなく、すべての国民が平等に教育を受けられる社会が実現することを期待しています。
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